2012年11月28日水曜日

<からだの座学>今尾博之さん「地域と舞台芸術」

<からだの座学>今尾博之さん「地域と舞台芸術」

今回の座学の講義には新潟市民芸術文化会館「りゅーとぴあ」の今尾博之さんにおこしいただきました!
今回は「地域と舞台芸術」をテーマに、たっぷり4時間の講義のワークレポートです!



講義はまず、今尾さんのこれまでの経歴のお話から始まりました。

今尾さんはPAI学長の小池博史が主宰していた舞台芸術カンパニー「パパ・タラフマラ」の元メンバー(パフォーマー/制作)でいらっしゃいます。
一橋大学時代、部活の勧誘のような形で誘われ入団後、パフォーマーと制作の兼任をへて、1990年頃からは制作として活動していらっしゃいました。また、小池がつくば市の芸術監督を務めた際は、つくば都市振興財団の制作スタッフとしてご活躍されました。
その後、福島のいわき芸術文化交流館アリオスでのプロデューサー、2010年にはトヨタコレオグラフィーアワードの審査員などを務められ、現在は新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあで企画を担当されていらっしゃいます。

制作者として現場で長年活躍されている今尾さん。
「何事も、自分で企画し公演をしてみることではじめて学ぶことができる。」


人が集まる場所を保っていくことの難しさ、大切さ…。
今尾さんのお話は制作者に限らず、パフォーマーやスタッフ問わず、今後芸術や表現に関わっていく者にとって欠かせないエッセンスが詰まっていました。

「無理をせず、自分なりのやり方で舞台の世界を生きていくこと、いい付き合い方を見つけること」

今尾さんの心強く暖かい言葉に、勇気がもらえたPAI生でした。


講義もいよいよ本題の「地域と舞台芸術」へ話が移ります。

昨年の東日本大震災の際、今尾さんは福島の「いわきアリオス」に勤めていらっしゃいました。
避難所としての劇場について、被災した人々(とくに子どもたち)にとってのあらゆる境目について、そして何よりも「非常事態のなかで、劇場の果たすべき役割とはそもそも一体何なのか」について立ち返って考える機会となったそうです。


「いわきアリオス」は被災した劇場ということで慰問ブームが到来し、近所のおばさんから世界の有名パフォーマーまで、様々な人々が劇場を訪れました。

ただ突然やってきてパフォーマンスし、その姿をビデオ撮影などして片付けもせず乱暴に帰っていく人もいる。一方で、現場に着くとまず避難されている方々の話をきき、会話をし、その場に溶けいるような形で演奏をしていく人もいる。

本当に様々な訪問者があるなかで、どのようなルールを定めるのか、告知はどうするのか、いつ頃から無料公演を終え、通常のラインナップに戻すのか。様々な問題が立ち現れてきたそうです。


そんななか今尾さんは、震災で中止になった劇団ままごとの「わが星」を、急遽“福島県立いわき総合高等学校”にてリーディング公演として上演されました。(リーディング公演のレポートはこちら)
わが星
(写真:村井佳史)
「わが星」という作品では地球の誕生と消滅を下敷きに、たくさんの人がなくなるシーンがでてくるなど、被災直後に上演するのは控えたほうがいいのではないか、という意見がでたりもしましたが、そうした時期だからこそ、上演する意義があると考えて実行にふみきったとのことでした。
観劇された方のなかで気分が悪くなったり、嫌な思いをした人は一人もいなかったということです。







また、いわきアリオスが震災後に点検改修を経てフルオープンを果たした昨年11月の
タイミングで上演されたシルヴィ・ギエムの公演では実行委員会を立ち上げ実施、予想を上回る評判で、多くの方に見て頂くことができたのだとか。



それぞれの公演をへても、すぐに目に見えるような効果が現れることはありません。
しかし、確実にそれらは人々の心の中に残り、5年後、10年後、もしかしたらもっと遠い未来に、何らかの形で影響を与えていくのでしょう。



「今後どのように芸術・表現と向き合い、いかに地域の人々と繋げていくか。」

芸術や表現の現場で生き抜くことは決して容易いことではありませんが、
真摯に取り組み、地道に向き合うことで、自身の活路を見出すことが出来るのではないか。ひいては日本全体の活路を見出すことにも繋がるのではないか。

舞台制作者として今や、その道20年の今尾さんとともに、思う存分語り考える時間を得たPAI生でした。

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